8020運動
日本の厚生労働省が推進する「8020運動」は、2040年代にかけての超高齢化社会を見据えた重要な国民健康運動です。
8020運動とは、「80歳になっても自分の歯を20本以上残そう」というスローガンで、平成元年から始まった国民健康増進運動です。この運動の目的は、単に歯の数を維持することだけではなく、歯の健康を通じて全身の健康を保ち、豊かなQOL(生活の質)を実現することにあります。
8020運動の背景と必要性
1. 超高齢社会の到来
日本の平均寿命は年々延伸し、世界トップクラスの長寿国となりました。しかし、平均寿命と健康寿命の間には大きな乖離があります。健康寿命とは、心身ともに自立して健康的な生活を送ることができる期間のことです。この健康寿命を延伸するためには、口腔の健康が不可欠です。
2. 口腔の健康と全身の健康
歯を失う主な原因は、むし歯と歯周病です。これらは口腔内の細菌感染症であり、全身の健康と深く関連しています。
糖尿病: 歯周病は糖尿病の合併症であり、歯周病を治療することで糖尿病の症状が改善することがわかっています。
心疾患: 歯周病菌が血管に入り込み、動脈硬化を進行させるリスクがあります。
誤嚥性肺炎: 歯周病菌が気管から肺に入り込むことで発症する誤嚥性肺炎は、特に高齢者にとって命に関わるリスクです。
8020達成の現状と課題
1. 8020達成者の増加
運動開始当初、80歳で20本以上の歯を持つ人の割合はわずか7%でしたが、2019年の調査では51.2%と大幅に増加しました。これは、歯みがき習慣の定着や定期的な歯科健診の普及など、国民の口腔衛生意識の向上によるものです。
2. 依然として残る課題
健康格差: 経済的な理由や地域差により、歯科医療へのアクセスが困難な人々がいます。
若年層の意識: 高齢者だけでなく、若年層からの口腔ケアの重要性を訴える必要があります。
8020運動を成功させるための具体的な方法
1. 適切な歯みがき習慣
歯ブラシの選び方: 口の大きさに合った歯ブラシを選び、歯と歯肉の境目に毛先を当てて丁寧にみがきます。
歯間ブラシ・デンタルフロス: 歯ブラシだけでは届きにくい歯と歯の間や歯周ポケットの汚れを落とすために必須です。
2. 食生活の改善
よく噛むこと: 噛むことで唾液の分泌が促進され、むし歯を予防し、消化を助けます。
バランスの取れた食事: 歯や骨を丈夫にするカルシウムやビタミンDなどを積極的に摂取します。
3. 定期的な歯科健診
歯科医院でのプロフェッショナルケア: 歯科衛生士による歯石除去やクリーニングは、家庭でのセルフケアでは不十分な汚れを取り除くことができます。
早期発見・早期治療: むし歯や歯周病は初期段階では自覚症状がないことが多いため、定期的な歯科健診で早期に発見し治療することが重要です。
8020運動の今後の展望
8020運動は、単なる歯の健康運動にとどまらず、健康寿命の延伸、ひいては国民医療費の抑制にもつながる重要な取り組みです。今後は、さらに多くの人々が8020を達成できるよう、地域ぐるみでの取り組みや、企業や学校での口腔ケア教育の普及が求められます。
まとめ
8020運動は、「80歳になっても自分の歯を20本以上残す」ことを目指し、口腔の健康を通じて全身の健康と豊かな生活を追求する国民運動です。適切なセルフケアとプロフェッショナルケアの組み合わせにより、誰でも達成可能な目標です。
8020運動の歴史と変遷
1. 運動の誕生(平成元年)
高齢化社会の到来を見据え、厚生省(現:厚生労働省)と日本歯科医師会が協力してスタート。
目的は「高齢者のQOL向上」と「医療費削減」
2. 達成率の推移
平成元年:80歳で20本以上歯がある人の割合は7%
平成23年:約38%
平成28年:約47%
令和元年:51.2%
3. 運動の拡大と進化
8020運動は、「80歳で20本」という具体的な目標を掲げることで、国民の意識向上に大きく貢献しました。
運動の対象は高齢者だけでなく、すべての年代へと広がり、「子どものころからの予防」の重要性が認識されるようになりました。
8020運動がもたらす経済的・社会的効果
1. 医療費の抑制
歯周病の治療や入れ歯・インプラントの費用を削減。
口腔の健康を保つことで、糖尿病や心疾患など全身疾患の予防につながり、結果として医療費全体の削減に貢献します。
2. 介護予防と社会参加
自分の歯で噛むことは、脳を活性化させ、認知症予防に効果があるとされています。
美味しいものを食べられることは、生活の楽しみとなり、社会参加への意欲を高めます。
8020達成のための具体的ステップ
1. 子どものころからの予防
フッ素の活用: フッ素は歯質を強化し、むし歯を予防する効果があります。
歯みがき指導: 小学校などでの歯みがき指導により、正しいセルフケアの習慣を身につけます。
2. 働き盛り世代のケア
ストレスケア: ストレスは歯周病を悪化させる一因です。適切なストレスケアが重要です。
喫煙・飲酒の抑制: 喫煙は歯周病を悪化させる最大の要因の一つです。
3. 高齢期のケア
口腔機能の維持: 舌や唇、頬の筋肉を鍛える体操(パタカラ体操など)により、嚥下機能を維持します。
入れ歯の適切な管理: 入れ歯は清潔に保ち、定期的に調整することで、口腔内のトラブルを予防します。
まとめ
8020運動は、単なる歯の健康運動ではなく、超高齢社会における健康寿命の延伸、医療費の抑制、そして豊かな生活の実現に向けた重要な国民的プロジェクトです。
8020運動を成功に導くための今後の展望
1. デジタルヘルスケアの活用
スマートフォンアプリなどを活用した歯磨き指導や口腔ケアの情報提供。
AIを活用した口腔内診断システムの開発により、早期発見・早期治療を促進。
2. 地域包括ケアシステムとの連携
歯科医師や歯科衛生士が、地域包括支援センターや介護施設と連携し、高齢者の口腔ケアをサポート。
訪問歯科診療のさらなる普及により、通院が困難な人々へのサービスを充実。
3. 「歯医者さん=痛い・怖い」というイメージからの脱却
痛みの少ない治療技術の導入や、リラックスできる空間作りなど、歯科医院のイメージ改善。
定期健診を「健康維持のための場所」として位置づけ、積極的に活用するよう啓発。
8020運動のグローバルな位置づけ
日本の8020運動は、WHO(世界保健機関)からも注目されており、他の先進国においても同様の国民運動が展開されています。
「歯の健康は全身の健康のバロメーター」という考え方は、今や国際的な共通認識です。
8020運動とSDGs
8020運動は、国連が提唱する「持続可能な開発目標(SDGs)」とも深く関連しています。
SDGs 3「すべての人に健康と福祉を」: 8020運動は、すべての年齢層の人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進することに貢献します。
SDGs 10「人や国の不平等をなくそう」: 経済的・地理的な格差による歯科医療へのアクセスの不平等を是正する取り組みが重要です。
8020運動は、日本が超高齢化社会を乗り越え、国民一人ひとりが健康で豊かな生活を送るための基盤となる重要な国民運動です。過去の成功を基盤としつつ、新たな課題に対応するため、デジタル技術の活用や、地域との連携、さらなる啓発活動が求められています。
当院の今年の8020運動達成者は23名です。皆さんのお口の健康のお手伝いをさせていただきます。