舌がんについて
舌癌は、口腔癌の一種であり、その名の通り舌に発生する悪性腫瘍です。日本では比較的稀な癌と考えられていますが、近年、食生活や生活習慣の変化に伴い、若年層を含む幅広い年代で増加傾向にあります。舌癌は、早期発見・早期治療が非常に重要であり、放置すると舌の機能喪失や、リンパ節、さらには全身への転移を引き起こし、生命を脅かすこともあります。本稿では、舌癌の原因、症状、診断、治療、そして予防について詳細に解説します。
舌癌の発生原因
舌癌の発生には、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。主要なリスクファクターとして、以下のものが挙げられます。
喫煙と飲酒: 喫煙は、舌癌の最大の原因の一つです。タバコに含まれる発がん性物質が口腔内の粘膜を刺激し、遺伝子を損傷することで癌化を促進します。また、過度なアルコール摂取も口腔内の粘膜に炎症を引き起こし、癌化を助長します。喫煙と飲酒の両方が習慣になっている人は、相乗効果により、舌癌のリスクが飛躍的に高まります。
慢性の刺激: 不適合な義歯や、鋭く尖った歯、虫歯の放置などによって、舌の同じ部位が長期間にわたって繰り返し刺激されると、慢性的な炎症が起こり、舌癌のリスクが高まります。これは、口腔内の衛生状態が悪い場合にも同様のことが言えます。
ヒトパピローマウイルス(HPV)感染: 子宮頸癌の原因として知られるHPVですが、近年、口腔癌との関連も指摘されています。特に、HPV16型は口腔癌の発生に関与することが明らかになっており、舌癌も例外ではありません。
食生活: 栄養バランスの偏った食生活、特に野菜や果物の摂取不足は、免疫力を低下させ、舌癌のリスクを上げる可能性があります。また、熱い食べ物や刺激の強い香辛料の摂取も、口腔粘膜に繰り返しダメージを与えることで、癌化を促進する可能性が指摘されています。
舌癌の症状
舌癌の症状は、初期と進行期で異なります。早期発見のためには、些細な変化にも注意を払うことが重要です。
初期症状:
治りにくい口内炎: 舌癌の初期症状として最も多いのが、口内炎に似た潰瘍です。通常の口内炎は1~2週間で自然に治癒しますが、舌癌による潰瘍は数週間経っても治らず、徐々に大きくなっていく傾向があります。
舌のしこり: 舌の側縁や下面に、硬いしこりができることがあります。痛みがないことも多いため、見過ごされがちです。
舌のただれ、赤み、白斑: 舌の一部がただれたり、赤く腫れたり、白い斑点(白板症)ができることがあります。これらは癌の前段階である可能性もあります。
進行期症状:
痛み: 進行すると、食事や会話の際に強い痛みを感じるようになります。
出血: 癌組織が脆くなり、少しの刺激で出血しやすくなります。
舌の動きの制限: 癌が進行し、舌の筋肉に浸潤すると、舌の動きが悪くなり、食事や発音に支障をきたします。
リンパ節の腫れ: 癌が頸部のリンパ節に転移すると、首の付け根にしこりができます。
嚥下困難: 癌が大きくなると、食べ物を飲み込みにくくなります。
舌癌の診断
舌癌の診断は、問診、視診、触診から始まります。
視診・触診: 口腔外科医や耳鼻咽喉科医が、舌の状態を詳しく観察し、しこりや潰瘍の有無、硬さなどを確認します。
組織検査(生検): 舌癌が疑われる場合、病変の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べる生検が行われます。これにより、癌であるかどうかの確定診断を下すことができます。
画像診断: 癌の広がりやリンパ節転移の有無、遠隔転移の有無を調べるために、CT、MRI、PET-CTなどの画像検査が行われます。
舌癌の治療
舌癌の治療法は、癌の進行度合い(病期)、癌の種類、患者さんの年齢や全身状態などを総合的に考慮して決定されます。
外科的切除: 舌癌の最も基本的な治療法であり、癌のある部分を切除します。初期の舌癌では、部分切除で対応可能ですが、進行した癌では、舌の半分以上を切除する「半舌切除術」や、舌全体を切除する「舌全摘出術」が行われることもあります。舌の欠損が大きくなった場合は、身体の他の部分から組織を移植して舌を再建する「再建術」が行われます。
放射線治療: 放射線を照射して癌細胞を死滅させる治療法です。早期の舌癌や、手術が難しい部位の癌に対して、単独で行われることもありますが、手術と組み合わせて行われることもあります。
化学療法(抗がん剤治療): 抗がん剤を投与して癌細胞を攻撃する治療法です。手術や放射線治療と組み合わせて行われることが多く、特に進行した舌癌や、転移がある場合に有効です。
分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤: 近年、特定の分子を標的とする分子標的薬や、免疫の力を利用して癌細胞を攻撃する免疫チェックポイント阻害剤が、舌癌の治療にも導入されています。これらの治療法は、従来の治療法では効果が乏しかった癌に対しても効果が期待されています。
舌癌の予後とリハビリテーション
舌癌の予後は、病期によって大きく異なります。早期に発見され、適切に治療すれば、高い治癒率が期待できます。しかし、進行した状態で発見された場合、予後は厳しくなります。
舌を切除した後は、食事や発音に支障をきたすことがあります。そのため、術後には、言語聴覚士によるリハビリテーションが重要となります。嚥下訓練や発音訓練を通じて、できるだけ元の生活に戻れるようサポートします。また、食事の形態を工夫したり、栄養士による食事指導を受けたりすることも大切です。
舌癌の予防
舌癌を予防するためには、日頃からの生活習慣が非常に重要です。
禁煙と節酒: 喫煙と過度な飲酒は、舌癌の最大のリスクファクターです。今日からでも禁煙し、飲酒量を控えることが大切です。
口腔内の衛生管理: 毎日の丁寧な歯磨きや、定期的な歯科健診が重要です。不適合な義歯は作り直す、尖った歯は削るなど、口腔内の慢性的な刺激をなくすことも大切です。
バランスの取れた食生活: 野菜や果物を積極的に摂取し、栄養バランスの取れた食事を心がけましょう。
早期発見・早期治療: 舌に口内炎のような潰瘍が2週間以上治らない、しこりがある、などの症状が見られた場合は、放置せずに早めに耳鼻咽喉科や口腔外科を受診しましょう。
まとめ
舌癌は、喫煙や飲酒、慢性の刺激などが原因で発生する口腔癌の一種です。初期症状は口内炎と似ており見過ごされがちですが、早期発見・早期治療が予後を大きく左右します。日頃から口腔内の状態に注意を払い、異常を感じたらすぐに専門医に相談することが重要です。適切な治療と術後のリハビリテーションによって、日常生活への復帰を目指すことが可能です。舌癌の予防には、禁煙や節酒、口腔内の衛生管理など、日々の生活習慣の見直しが不可欠です。
当院では口腔がんの早期発見のために専用機器を用いた口腔がん検査を実施しております。